五十一話 〜 声  その2     


       
 
・・・・その夜、私は大学時代の友達と長電話を楽しんでいました。 
         久しぶりということで話に花が咲き、随分と話し込んでいました。
         話も盛り上がり、お互いがお腹を抱えて笑っていた時のことです。
         受話器の向こうの友達のテンションが急に下がってしまいました。

         私  「・・・・?もしもし?どうしたの?」
         友達 「・・・・あのさ、まだ子供達って起きてるの?」
         私  「子供達はもう随分前に寝たわよ?」
         友達 「・・・テレビ、付けてないよね?」
         私  「うん・・・付けてないけど・・・・?やだ、もう、だからどうしたのよぉ〜。」
         友達 「・・・・怖がらないでね? ・・・何かね・・・変な声が聞こえてくるのよ。」
         私  「変な声?・・・って・・・やだ、何?」
         友達 「・・・そっちから笑い声が聞こえてくるの・・・今も聞こえてる・・・・」
             
         ・・・・彼女の言葉に背筋がゾクッと寒くなり、ふと気になる背後を振り向きました。

         ・・・・気のせいでしょうか・・・・?カーテンがフワッと揺れ、何かが窓の外へ通り
         過ぎて行ったように見えました。

         私  「・・・・ねえ?まだ笑い声、聞こえてる?」
         友達 「・・・・・・・あ、聞こえなくなったみたい・・・・。」
         私  「・・・・そう・・・・・。」

         ・・・早々に友達との長電話を切り上げ、静かに受話器を置くと、気配を感じた
         窓辺を清め始めたのでした・・・・。


                           
             















 



















        














































 



                    第五十二話 〜 排水口    


                ・・・仕事の為、某ホテルに一人宿泊した時の出来事です。
                仕事を終え、夕方その部屋へ案内された時、何となく重苦しい空気を感たのです。
                「・・・何か嫌だな・・・お部屋、変えてもらおうかしら・・・」
                とは思いましたが、仕事の疲れが溜まっていたせいか、ベッドに横になると、
                いつの間にか寝入ってしまいました。

                
・・・・ゴゴゴゴゴゴゴ〜〜〜〜〜・・・・ゴボゴボゴボゴボ・・・

                ・・・どのくらい眠っていたでしょうか・・・。
                突然の異様な音にハッと目を覚ましました。

                「・・・・・? ・・・・何の音・・・??」

                眠気眼を擦りながら、真っ暗になった部屋の照明を探しました。
                照明のスイッチを探している最中、異様な音はゆっくりと消えてしまいました。
                消えた音のする方には、バスルームがあります・・・。

                「・・・・排水口・・・・の音・・・・?」

                誰もいないはずのバスルームから、水を流す音がしていたのだと気付くと、
                眠気も一気に覚め、恐ろしさで心臓が高鳴りました。

                スイッチを探し当て、慌てて明かりを付けようとしたのですが、何度スイッチを押しても
                明かりがつきません。
                
                「・・・やだ、どうしたのかしら、壊れてるの・・・?」

                何度も何度もスイッチをカチャカチャ押しましたが、明るくならないのです。

                ・・・ふとその時、バスルームの方に重苦しい気配を感じたのです・・・・。

                ・・・・恐る恐るバスルームの方を振り向いてみると・・・・

               
 長い髪の女のシルエットがバスルームの前辺りにボンヤリと立っているのが
               見えたのです!

                
                恐ろしさで悲鳴も出ませんでした。
                私はガタガタ震えながらも、手探りでバッグの中からレーザークリスタルを取り出し、
                バスルームに剣先を向け、思い切り跳ね返してみました。

                ・・・すると長い髪の女のシルエットはゆっくりと蠢き、溶けるようにス〜っと消えてしまいました。

                「・・・一体・・・何なのかしら・・・?」

                心臓をバクバクさせながら震える指でもう一度照明のスイッチを押してみましたら、今度は
                フッと部屋が明るくなったのです。

                すぐにバスルームの中をチェックしてみましたところ、まだ使っていないはずのバスルーム
                の中は、随分と湿気がこもっていたのです。
                ・・・バスタブの中は明らかに水を流した形跡が・・・・

                「・・・・気味が悪いわ・・・・」

                バスルームを清めようと、持参した粗塩を四隅に置き、レーザークリスタルで浄化して
                みました。

                
ゴボゴボゴボ!!!!
                
                浄化の最中突然排水口から大きな音がしましたので、中を覗いてみましたら、何かが
                詰っているようなのです。
                ・・・詰っていたのは黒い髪の毛でした・・・

                恐怖心もピークに達し、浄化を終えるとすぐにフロントに電話をかけ、部屋を変えて
                もらったのでした・・・・・。

                ・・・・そう・・・・気のせいだったのかもしれません・・・。排水口に詰っていた髪の毛も、
                前に宿泊していた人のものかもしれませんし・・・・。しかし・・・バスルームの前に確かに
                感じたあの女のシルエットは・・・・・ 突然流れる音を立てた排水口は・・・・
                一体何だったのでしょう・・・。

                                   





















 
                












































 



                 第五十三話 〜 滴る怪    


            それは夜明け前のことでした。ぐっすりと熟睡する私の頬に、突然ヒンヤリ
      と冷たい水滴がポツン・・・ポツン・・・・そしてまたポツン・・・と滴り
      落ちる感触を覚え、何事かとゆっくり瞼を開けてみますと・・・・

      
・・・なんと、ベッドサイドにずぶ濡れの見知らぬ男が私の顔を覗き込み
      ながらボンヤリと立ち尽くしていたのです。


      恐ろしさのあまり心臓が高鳴り身体は震え動揺し、また寝起きということもあり
      状況を判断するまで時間がかかりました。
      ・・・心の中で恐る恐る
      「・・・アナタは・・・? 一体誰・・・?」
      と、尋ねてみましたところ
      「・・・ごめんなさい。・・・お休みのところ申し訳ないのですが、明りが
      見えたので来てしまいました。・・・私は何処へ行けば良いのでしょうか? 
      ずっと冷たい水の中にいるようで出口がわからず困っているのです。」
      頭にグワングワンと響き渡るようなゆったりとした低い声・・・というか感覚
      というか、とにかく男はそう訴えている様子。・・・意外と丁寧な彼の態度に
      少しホッとし、それでも
      「・・・残念だけど私にはアナタを助けられるかどうかわからないわ。
      もっと力のある人を探した方が・・・」
      と、一生懸命念を送るように力不足を彼に説明しましたところ、
      「・・でも・・明りが見えたので、きっと何か知ってると思ったものですから・・」
      男は何度も何度も同じ言葉を繰り返しています。男が訴える度、頭にグワングワン
      と重苦しく響きます。
      丁寧な言葉の割りにはしつこくて強情というか、男は一向にそばから離れようと
      しないのです。 いつもなら毅然と断るのですが根負けし
      「・・・私にできることといえば簡単な浄化、供養くらいですが・・
      試してみましょうか?」
      そう言いながら、浄化を試みました。

      
      「おっはよ〜!かーちゃん、もう7時なんですけど!早くメシ作ってくれよ〜!」

      息子の元気な声に飛び起きた私は、ハッと周りを見渡し、ずぶ濡れの男の姿を
      確認しましたが何処にもいません。 ・・・夢だったのかしら・・・ 眠い目を
      擦りながらゆっくりとベッドを抜け出ようと思いましたら、男が立っていた場所が
      じっとり冷たく湿っているのに気づきました・・・。

      ・・・もし、夢じゃなかったとしたら・・彼はちゃんと成仏できたのかしら・・・

      そんなことをボンヤリと考えながら、朝食の支度を始めたのでした・・・。

      
      
      
      


















































































 




                       
第五十四話 〜 鏡の怪


        ・・・これは私が高校生の頃の出来事です。
        仲良しの友達A子が入院し、友達3人とA子のお見舞いに病院を訪れた
        時のことでした。その病院は建て増しした新棟と昔からの古い棟があり、
        二つは廊下で繋がっていました。古い病院なのであまり足を運びたく
        なかったのですが、友達が入院している病棟は新しい棟の方でしたし、
        仲良し仲間の私だけがお見舞いに行かないのも不義理だなと思い、
        思い切って友達と一緒に出かけることにしたのです。

        「え〜、マリも来てくれたんだ? 嬉しいけど無理しなくて良かった
        のに。(笑)」
        A子は私の霊感を知っていましたからお見舞いなど来ないかと思って
        いたようで、それでもとても喜んでくれました。
        仲間同士で雑談を楽しんでいる最中、私は急にトイレに行きたくなっ
        たのです。
        「トイレって・・どこ?」
        と、A子に小声で尋ねると、
        「ああ、この部屋を出てすぐ右よ。・・・でも大丈夫?(笑)誰か
        付いていってあげたら?」
        A子は茶化すように言いました。
        「アハハ、やだ、大丈夫よ。(笑)まだ4時だし人も沢山いるしね。」
        そう言い残すと、私は1人部屋を出て、右側に見えるトイレに入り
        ました。しかし、残念ながらそこは清掃中。
        「その廊下の突き当たり左にもトイレがあるよ。」
        清掃中の女性に教えられ、私は別のトイレを使用することにしました。
        ・・・しかしそこは、廊下の向こう側の古い棟のトイレでした・・・。
        それでも我慢は身体に悪いですし、止むを得ず古い棟の方へ向かった
        のです。

        明るい雰囲気の新棟に比べ、古い棟は何となく薄暗く、ドンヨリとした
        雰囲気でした。 気のせいか、すれ違う人々の顔もどことなく暗く、
        沈んで見えました。

        そっとトイレのドアを開け、中の様子を伺いますと、誰もいません。
        新棟とは違い、狭苦しく何ともいえないヒンヤリとした空気の中、
        トイレ用の古めかしいサンダルに履き替えると、カランカランと音を
        立てながら三つあるうちの一番手前のトイレに入り、速やかに用を済ませ、
        一つしかない小さな洗面台で、ネットに入ってぶら下がったレモン色の
        石鹸を使い、手を洗いました。冷たい水で手を洗っていると、ふと
        鏡越しにパジャマ姿の髪の長い女性が見えました。その女性は私と
        目が合うと、ゆっくりとお辞儀をしてトイレの個室に入って行きました。

        ・・・何だろう?彼女じ〜っと私のことを見てたみたいけど・・?
        知り合い?でもないしなぁ・・・

        などと思いながらポケットのハンカチを取り出し、手を拭うとトイレ
        を後にし、鏡越しにお辞儀をした女性の話を早速A子にしました。
        ・・・すると話を聞いているA子の顔が急に青ざめたのです。

        「・・・マリ?古い棟のトイレに行ったのよね?」

        と、確認するA子。

        「そうよ?それが何?」

        「・・・マリ、あのね、古い棟のトイレにはね、鏡がないはずなんだよ?」

        「・・・え・・・? う、うそよ。(笑)だって鏡越しに女の人が・・・」

        ・・・・そう言いかけた時、その場にいた私を含む全員が凍りついたのは
        言うまでもありません・・・・。


                   
        






























































 



                 第五十五話 〜 忍び寄る足音 ・・・ その1 



       ある休日の朝方、電話のベルで目覚めました。

       「・・・朝早くから突然ごめんね、起こしちゃった?よね?・・・相談
       できるのはマリちゃんしかいなくて・・・いつも困った時ばかり連絡して
       申し訳ないんだけど・・・」

       切羽詰まったその声は、10年程前、社宅に住んでいた頃知り合った友達
       Aでした。 彼女も小さい頃から霊を感じ、特にマイナスの霊波動を受け
       やすいと悩んでいました。 人が多く集まる街中や遊園地、コンサート会場
       などへ行くと、必ずといって良いほどおかしな霊に憑かれてしまうそうなの
       です。そんな彼女も除霊方法を習ったり、自分である程度はなんとか跳ね
       返せるようにはなったらしいのですが、それでも強烈な霊の場合はなかなか
       去ってもらえず苦しめられてしまうのです。
          
       「どうしたの?何かあったの?」
  
       「・・・実はね、ここ3ヶ月くらいある霊が離れてくれなくて困って
       いるの。決まって夜中の2時半頃・・・かな、気配を感じるんだけど・・・ 
       私ね、子供と二人で二階に寝ているの。2時半頃になると、階段を上が
       って来る誰かの足音がゆっくりゆっくり、ミシッ・・・・ ミシッ・・・・ 
       ミシッ・・・・ って、聞こえ出すのよ。最初は母が上がってくる足音
       かと思っていたんだけど、翌朝母に聞いてみたら下の寝室でグッスリ眠っ
       ていたし二階には上がって来なかったって言うし・・・。その足音ね、
       いつも私達が寝ている部屋の前でピタッと止まるのよ・・・ もう怖くて
       怖くて・・・。 先日、霊感のある友達と久しぶり会ったんだけど、
       オーラの色が薄くなってるって心配されて、すごく気になって・・・。」

       彼女は2年ほど前離婚をし、子供を連れて彼女のご実家で暮らすように
       なったのですが、その家は彼女が幼い頃から奇妙なことが度々起きたそうで、
       奇妙なことが起きた後は不運に見舞われるというジンクスがあり、彼女も
       大変気にしているのです。

       「・・そっか。それは気味が悪いわよね。それで・・除霊とか試して
       みたの?」

       「それがねぇ・・・全然効かないの。何をやっても毎晩足音が聞こえるのよ。
       有名な霊能者さんや神社からお札を頂いたり色々試してみたんだけど・・・。
       もうお手上げ状態。 何ていうのか、ヴィールスのワクチンじゃないけど、
       お札やお守りも使い過ぎると効かなくなっちゃうのかな?」

       「・・・どうかしら・・・?私はそこまで憑かれた経験がないからわから
       ないけど・・・不安ならこれから見に行ってあげようか? あ、でも何も
       助けにならないかもしれないけど・・・」

       「え?いいの?そうしてもらえたらすごく心強いわ。お願い。」

       ・・・というわけで、日頃除霊に使用しているものを持ち、彼女の家へ
       向かいました。

       彼女の家に着いたのは午後1時頃。 ・・・電話で話していた通り、
       彼女のオーラには艶というか輝きが薄れ、霧のような薄い靄に覆われて
       いるように感じました。 精神力や体力が消耗すると、どうしてもオーラ
       の色って薄く、そして輝きがなくなってしまうようなんですよね・・・。

       家自体には特に強い霊気を感じることなく、リビングに通されました。

       「お母さんは?」

       と、友達に尋ねると

       「・・・ここ一週間くらい、ずっとベッドで横になってるの・・・。
       腰が痛くて辛いって・・・。歩くと痛むらしいのよ。」

       「・・・そう?お母さん、腰痛持ちだったっけ?」

       「・・・昔から足腰は丈夫な人なのよ。ここ最近なの、痛み出したのは。
       何でも霊のせいにするのは良くないけど、最近私も肩こりや頭痛がひどくて、
       今も頭痛薬を飲んでるの。関節の節々が鈍く痛むような・・・。
       足音の霊と関係していたらなんて思うと不安になるのよね・・・幸い子供
       には何の変調もないんだけど・・・・かえってそれが怖くて・・・・。」

       「足音のする階段って、あそこ?」

       彼女に尋ねながら、玄関の横の階段の方へ向かいました。

       「そう、ここよ・・・。 この家ももう随分古くなってきて、あちこち
       傷んできてるみたいで、階段もほら、ね?上がるとミシミシ音を立てる
       でしょ?」

       彼女は二階の彼女の寝室へと案内しながらそう言いました。
       ・・・玄関の前には盛り塩、家の中はあちこちお守りやお札が貼られ、
       それらを目にする度、彼女の切羽詰まった心の叫びを感じます。

       ふと私は、あるものが気になりました。
       階段を上がる途中にある、木目の模様です。
       よく見ると、何か不気味な顔のようにも見えるその模様は、こちらをギロリ
       と鋭く睨んでいるような気がします。・・・その顔が半分覆われるように、
       古い風景画が飾られていました。

       友達が寝ている寝室は和室で、日当たりや風通しも良く、霊気は全く感じ
       られませんでした。

       「日中は全然嫌な気がしないのよ・・・マリちゃんもそれほど感じない
       でしょう? そう、むしろ心地良いくらいなの。 でもね、夜になると
       あちこちで異様な気配を感じるようになるの・・・。お風呂場とか、
       トイレとか・・・そしてやっぱり階段の音が・・・。」

       彼女の話を聞いた後、とりあえず自分にできるだけのことはしてみようと
       思い、まずは家の周りに祈るように粗塩を撒き、次に玄関やトイレ、
       お風呂場を清め、問題の階段にはお水を置き、お部屋一つ一つをレーザー
       クリスタルを使い浄化しました。 

       「・・・私にできることはこのくらいかな・・・。気休めかもしれない
       けど、これで一晩様子を見てみる?」

       家中を清めた後、彼女にそう話すと

       「・・・今夜、泊まってもらえないかしら? ・・・せっかくの休日だし、
       ご家族もマリちゃんの帰宅を待っているだろうから無理には引き止められ
       ないけど・・・。」

       「・・・家は・・・明日天気が良ければ子供達と遊園地へ行く約束をして
       るけど・・・でも・・・正直泊まるのは怖いかな・・・(汗) 」

       「そうだよね?階段を上がってくる気配なんかあえて体験したくないよね?
       もしかすると取り憑かれるかもしれないし危険だものね・・・ごめん・・・
       勝手なお願いしちゃって・・・・」

       「・・・う〜ん・・・今までの経験上、憑かれたりはしないと思うんだけど、
       でもやっぱ怖いよぉ・・・怖いに尽きるよ・・・・」

       ・・・などと言いつつも、結局その晩は彼女の家で過ごすことになったの
       です・・・。


       ・・・と、ここまで書いているうちに、なんだか体が重苦しく
            ダルく、そして眠くなってきましたので、続きは次回ということで・・・
          
          














               











                                     









































                     

                   第五十六話 〜  忍び寄る足音 ・・・ その2  



          ・・・・第五十五話の続きを書こうと思います。 続きを書こうとすると、
       どうしても体がダルく重苦しくなってしまい、なかなかキーを打つ手が
       すすみませんでした・・・。

       ・・・さて・・・その日の夕方、私は友達宅で夕食をご馳走になりました。
       彼女のお母様もベッドから起きてきて、家に纏わる過去の不思議な出来事
       などを色々聞かせて下さいました。
       私はお酒は強い方だと思うのですが、その日は何故か、ワインをボトルに
       半分ほど頂いただけで、強烈な倦怠感、眠気が生じてしまったのです・・・。

       「・・・ごめん・・・なんだか今日は酔いが回るのが早いみたい。どうし
       たんだろう?」

       「珍しいわね?・・・除霊で疲れてしまったのかしら? 酔いが覚めるまで
       暫く横になったらどう?すぐお布団を敷くわね。・・・あ、勿論私の部屋
       じゃなくて、隣の客間にね。(笑)」

       二階に案内され、彼女に敷いて貰ったフカフカのお布団に横になると、私は
       すぐに深い眠りに落ちてしまいました。

       ・・・どのくらい眠ったことでしょう・・・。 鈍い頭痛にウトウト目覚め、
       真っ暗な部屋を見渡しました。・・・そっか、友達の家に来ていたんだ・・・。
       と、意識朦朧の中、我に返り、そろそろ御暇しなければ・・・と思って立ち
       上がろうとしたのですが・・・ 「?!」 何故か体中の節々が強張り動け
       ないのです。金縛りとはまた違った妙な感覚だったのですが・・・次第に嫌な
       予感がしてきました・・・。 
       もしかすると・・・既に霊の手の内なのではないだろうか・・・?と。 
       持参した数々の除霊グッズは下の階に置いてあるバッグの中に入ったままでし
       たから、私はかなり焦り、動揺しました。 
       ・・・そして次の瞬間、私の背筋は凍りついたのです。・・・階段を上がって
       くる誰かの足音が、ミシッ・・・ミシッ・・・ミシッ・・・・と、ゆっくり
       聞こえてきたのです。
       ・・・・どうしよう・・・・どうすれば・・・・
       心臓は高鳴り、それでも兎に角心の中で必死にお経を唱え始めました。
       階段を上がる足音は、ゆっくりと・・・どんどん近く聞こえてきます。 
       ・・・声を出そうにも痞えて出ないのです。 次第に近づく足音に半ば観念し、
       覚悟を決めてお経に集中しましたら・・・
       その足音は部屋の前で止まりました。

       「・・・あなたは・・・誰ですか?」

       ドアの向こう側にいるであろう誰かに思い切って念を送ってみました。
       すると・・・ その何者かがゆっくりとドアを開け、こちらに入って
       くるではありませんか!!

       恐ろしさに震えながらも、私はお経を唱え続けました。

       「 ・・・・・  ・・・・・ ・・・・ ・・・・・  ・・・  」

       グワ〜〜〜ンと、鈍い耳鳴りと共に、低い声のその相手は、私に何かを訴え
       かけてきます・・・。

       暗がりの中、声のするドアの方へ目をやると、薄っすらとズボンの裾のような、
       男性の足元らしきものが見えるような気がしました。

       「・・・・釘・・・ 柱・・・・・ 壁・・・・ ? ・・・釘・・・・? 
       ・・・釘が・・・何・・・?」

       耳鳴りとともに聞こえてくるその低い声から聞き取るには、「釘が」という言葉
       で精一杯でした。


       「・・・マリちゃん? ・・・・ねえマリちゃんどうしたの?大丈夫?」

       ハッと気づくと、私の横には友達が心配そうに私を揺り起こしていました。

       気づけば体はスッと楽になっており、頭痛も治っていました。ゆっくりと起き
       上がり、時計を見ると夜の11時。 

       「いつまで経っても起きないし、様子を見に来てみたら随分魘されていた
       みたいで・・・」

       「・・・・魘されてた?」

       「ええ、とても辛そうだったけど・・・悪い夢でも見たかしら?」

       「・・・そうなのかな・・・?夢なのか何なのかわからないけど・・・・
       そう、さっきね、誰かが確かに不自然なほどゆっくりと階段を上がってくる
       足音を耳にしたのよ。 ・・・Aちゃんじゃないよね?」

       「・・・ゆっくりとした足音を?」

       「うん。夢かもしれないけど・・・それでね、多分男の人だったと思うん
       だけど・・・部屋にいきなり入ってきて、釘だとか柱だとか強く言ってた
       ような・・・」
     
       私がそう口にした瞬間、彼女は顔色を変えました。

       「マリちゃん、ちょっと来てくれる?」

       彼女に連れられ、リビングにある柱の前へ行きましたら、そこには一輪挿し
       が壁にかかっていました。

       「もしかするとこれのことかも・・・・」

       彼女はそう言うと、すぐに一輪挿しを取り外し、釘を抜き始めました。

       「これ、どうしたの?」 と、彼女に尋ねてみると

       「これ・・・っていうより、この柱だと思う。もしかするとあの足音、
       父かもしれない。」

       「お父さん?って、数年前に亡くなった?」

       ・・・お父様は霊感のある方だったようで、不用意に柱や壁などに釘を打ち
       つけたりすることを嫌っていたようです。 中でも家の中心にある柱に釘を
       打つと災いを招くと忌み嫌っていたそう。

       「・・・お父さん、これでいい?」

       彼女はそう呟くと、私に柱を清めて欲しいと言いました。

       「・・・そうだ!階段の壁に掛かっている絵があるでしょう?あそこも
       とても気になったのよ・・・」

       私が気になる箇所へ彼女を連れて行くと、彼女は絵を取り外し、打ち付けて
       あった釘を丁寧に抜きました。 その後、柱同様、その場も清めました。

       柱にはその家の要であり、守り神が宿る・・・と信じる方もいるようですし、
       子供の背丈を記録する為に傷をつける程度は微笑ましいもの、家庭の温か
       さが残るものですが、太い釘などを打ち付けることはあまり良くないこと
       なのかもしれませんね。また、壁に釘を打ち付ける時なども注意が必要なの
       かもしれません。
       ・・・釘というと五寸釘を思い出しますが、不用意に打ち付けてしまうと、
       その家を守る力が弱まり、逆に悪いものが入りやすくなると、生前彼女の
       お父様はおっしゃっていたようです。

            
       ・・・・長くなってしまいましたが・・・・これは私個人の勝手な解釈かも
       しれませんが、きっとお父様は、家に降り掛かる災いを回避するよう、友達
       に警告したかったのでは・・・と思いました。 しかし、何か悪いものが
       邪魔をして、なかなか友達にお父様の思いが伝わらなかったのでは・・・と。
       偶然なのかもしれませんが、釘を抜いて清めてからは、パッタリと階段を
       上がってくる足音が聞こえなくなったようで、友達の肩凝りや頭痛、そして
       心配していましたお母様の腰の調子も少しずつ楽になっている様子なので、
       因果関係は如何であれ、安心しています・・・。

     
            

            
            
             

            
            







            



























































 
 
                     第五十七話 〜 謎の鎧武者  その2 



             第三十五話でお話しました謎の鎧武者さんについてちょっとした進展がありました
             ので、こちらで続きをお話させて頂こうと思います・・・・。

             ・・・実は・・・・鎧武者さんは先日、消えてしまいました・・・・。

             「私の役割はもう終わったようだ。  そこでひとつ頼みがある。」

             ふと夢枕に立った鎧武者さんは、私にそう告げました。

             「・・・・頼み・・・・?」

             いつもなら鎧武者さんが現れる時というのは、何かオドロオドロしく、ひどい耳鳴りや
             重苦しさを感じるはずなのですが、その夜は何か、清々しささえ感じる夢でした。

             「私のために手を合わせてほしいのだ。 そして、経を読んでほしい。」

             「・・・あの、私、お経って般若心経しか知りませんが・・・・」

             「それでいい。心経を読んでほしいのだ。」


             私はいわれるがまま、手を合わせ目を瞑ると般若心経を唱えはじめました。
             


             ・・・・・・ハッと目覚めた時はなんとお昼の12時過ぎでした。

             「死んだように眠ってたし・・・まあ、今日は日曜日だしと思ってそのまま自然に
             目覚めるまでそっとしておいたんだよ。」

             と、夫。

             「・・・・ありがとう・・・・。」

             ・・・・ふと夢に出てきた鎧武者さんのことを思い出しました。
             何度も何度もお経を読みましたが、その後のことは全く覚えていません・・・・

             霊能力のある友達に話しますと

             「マリちゃん、多分だけど、その鎧武者、成仏したのかも・・・・・だったら
             良かったよね。 とにかくもうマリちゃんのそばにはいないはずよ。 ラップ音も
             なくなるはず・・・。 あ、 でもね、念のため、写経して燃やした方がいいかも
             しれないわね。 念の強い霊だったと思うけど、どこかでマリちゃんと波長が
             合っちゃったのね。」

             とのことでした。

             ・・・そっか、もう鎧武者さん、いなくなっちゃったんだ・・・・

             そう思うと何となく寂しい気持ちになってしまいます・・・。

             ・・・・今までは色々な霊を払い除けて下さってましたが、これからはまた頻繁に
             金縛りや不思議体験することになるのかなぁ・・・・(涙

             でも、鎧武者さんが成仏できたのなら何よりですし、とても不思議なご縁でしたが、
             私にとって貴重な体験になりました・・・・・。


                          
























































 

                    第五十八話 〜  空き家の怪
             
             
           
 北海道はお盆の頃になると、子供達が夜浴衣を着て一軒一軒「ロウソク出せ出せよ〜♪」
            と、ロウソクを貰ってまわる風習があります。 アメリカのハロウィンに似ていますが、
            貰えるものはキャンディーやクッキーではなくロウソクなんですよね。 それでも
            子供達はその行事が楽しみで、近所の仲良し5〜6人くらいでかたまって、提灯をさげて
            一軒一軒回るのです。

            ・・・それは私が小学4年生の頃の出来事でした。
            私もその頃は親に浴衣を着せてもらい、近所の子供達と寄り集まって、一軒一軒まわって
            いました。 
            一番最後の家をまわった後、引っ越してきたばかりの女の子、Eちゃんが、引き寄せ
            られるようにその隣の家へと向かったのです。

            「その家は空き家よ!」

            と、私は慌ててEちゃんをとめました。

            「え? うそ。(笑) だって今、玄関に何か人影が見えたわよ。」

            と、Eちゃん。

            「嘘だろ?そんなはずね〜よ! だってあそこのおばさん、玄関で首吊って
            自殺したんだぞ!」

            と、A君が恐々話しました。

            「だったらEちゃんが見たのはおばさんの幽霊・・・??? キャ〜〜〜!コワ〜イ!!!」

            「やだぁ〜! 幽霊?! コワ〜〜〜イ!!!」

            と、一緒にいたYちゃんとEちゃんはふざけ半分に怖がりました。

            「もう、そんな話やめて早く帰りましょうよ。」

            と、言いながら私はその玄関の方をチラリと見ましたら・・・・


            
ゆっくりと玄関のドアが開き、中から白い手がス〜っと出てきて、手招きしてるのです!!


            
その白い手を見ていると、次第に頭がグワ〜ンと重苦しくなり、私は自然と手招きされる玄関へと
            引き寄せられてしまったようなのです。


            「おい!どこ行くんだよ!? おい!!」

            と、A君に強く背を叩かれ、ハッと我に返りました。


            ・・・危うく引き寄せられるところでした・・・・


            家に帰りすぐに祖母に相談しましたら、あの家には近寄ってはいけないと強く注意
            されました。

            「きっと辛いから見えそうな子にちょっかいを出したくなったんだよ。 気づいてほしくて、
            助けてほしくて・・・ でも下手に同情したり関わっちゃいけない。 マイナスの気を撒き
            散らしているんだから。」


            ・・・真剣な祖母の話に怖さが増し、その夜はなかなか寝付けませんでした・・・・


            

            

            

            








                  
               












































 


                      第五十九話 〜  粗大ゴミの怪



              私がまだ学生だった頃の話です。

              「マリちゃんってさ、噂によると霊感強いんだって? ・・・ちょっと相談にのって欲しいん
              だけど、いいかな?」

              飲み会の席で男友達A君が私の隣に座ると、返事も聞かず勝手に一人で話し始めました。
              
              「実は最近部屋の様子がどうもオカシイんだよ。 俺、彼女もいないし貧乏アパートに
              一人暮らしで、時々友達が来るくらいなんだけど・・・ 隣の住人から何度も苦情が来てさ。
              そいつ、俺の部屋から赤ん坊の泣き声が聞こえてきてうるさいって言うんだよ。
              あまりしつこいから苦情言ってきたそいつを部屋に入れて、見ての通り俺一人しかいねーよ!
              って中を見せたら首を傾げて自分の部屋へ戻って行ったんだよな・・・。 で、最初、
              そいつがノイローゼかなんかでオカシイと思っていたんだけど、この前友達から電話が
              かかって来た時、お前の部屋、誰か来てるの?って聞くんだよ。 俺しかいねーよって
              言ったら、うそつけ、女の声がしたぞ!って言うんだよな。 赤ん坊の泣き声といい女の声
              といい、変だなと思ってたら、それ以来、気にしすぎのせいか、俺、全く霊感はないはずなん
              だけど、頻繁に金縛り?っていうのかな、あれが、多分そう、金縛りに遭うようになって、その後
              急に体調崩して熱が上がって昨日まで体がだるくて学校休んでたんだよ・・・・」

              そう話すA君の顔色は、無理に元気を装ってるのがわかるくらい暗く、いつもよりオーラに
              陰りが見えているような、何とも重々しい雰囲気でした。 

              「・・・・ってわけなんだけどさ・・・ どう?俺、何か憑いてる?のかな?」

              と、後ろに手をやり笑いながらA君。

              オーラに陰りが見えて覇気も失ってるようにはみえましたが、強烈に何かが憑いていると
              まではわかりませんでした。

              「・・・う〜ん・・・ ごめん。わからないわ。 私、霊感はあるけど霊能者ってわけでもないし・・・
              ・・・でも、何か強い念みたいなものにに苦しめられてるって感じはするけど・・・ 何か霊障の
              ようなものを感じるわ・・・。 
              ・・・もしかしたらだけど、A君ってよりその部屋が駄目なんじゃないかな?」

              「そんなこといってもあの部屋家賃が安くて凄く助かってるし、今更引越しはできないしなぁ。」

              「近々A君のお部屋、お邪魔させてもらっていい?」

              「え?! 来てくれるの?? そりゃ嬉しい。 俺全然暇だから、これからでもOKよ。(笑)」

              「夜は駄目よ、魔の時間だから、相手に有利だもの。 午前中が良いわね、天気の良い日。」

              と、ふと周りを見ると皆私とAの会話にニヤニヤ耳を傾けていました。^^;

              「お化けが出るから部屋をチェックして欲しいなんて新手のナンパかい!(笑)」

              と、茶化されながら、2次会はカラオケへ・・・・。


              さて、次の日。

              天気も良いので早速Aの家を訪ねることにしました。  

              アパートの階段をカンカン音を立てて上がり、二階の一番奥の部屋が彼の部屋でした。

              「どうぞ! って女性を入れるのははじめてなんだ。 むさ苦しいところですが・・・^^;」

              と、A君が玄関を開けるなり、物凄く重苦しい空気がムワァァァ〜〜っと襲ってきたのです。

              すぐにハンカチで鼻と口を押さえると、眉間にシワを寄せ咳込みながら即効で玄関を
              祓いました。

              「え? 何? 何してるの?  俺の部屋、そんなに臭い?!」

              「・・・そうじゃなくて・・・ すごく強い気が・・・・ 歓迎されてないみたいね・・・」

              そう言いながら玄関に大量のお塩をまいた後、部屋の中を掻き分けるようにして入りました。

              すぐに窓という窓を開け、玄関のドアも開けっ放しにして、部屋の中央に立ちました。

              不思議と部屋自体はそう悪いものを感じませんでしたし、疑っていたバスルームや
              トイレも意外と大丈夫でした。

              ・・・しかし・・・ どこからともなく鋭く重苦しく・・・ひんやりとした視線のようなものを感じます。

              じっとしているとその視線のせいで悪寒を感じ、ゾワッと鳥肌が立ってきます・・・

              ・・・一体どこだろう・・・ 鋭い視線の正体は・・・? と、部屋をぐるりと見渡すと・・・・

              ・・・部屋の隅に置いてある小さなテレビに何かを感じたのです。

              「・・・ねえ、A君、このテレビだけど・・・・ 」

              「ああ、これ?(笑) ラッキーだったんだよ。 粗大ゴミ置き場に置いてあってさ、まだ
              新しいし使えるみたいだから持って帰ってきたのさ。 貧乏学生にはラッキーなお宝
              だったよ。」

              と、嬉しそうなA君。

              「・・・いや・・・違うわA君、このテレビ、ラッキーなお宝なんてものじゃないかもしれないわよ。
              むしろ・・・災いを齎すテレビかもしれないから・・・処分した方がいいかも・・・。」

              と、私はテレビの画面を見つめながら凍りつきました。

              ・・・そこには・・・

              
ぼんやりとですが、赤ちゃんを抱く女性が恨めしそうにじっとりとこちらを見ている姿が
              あったのです・・・・


              そのことを話すとA君は驚き、

              「・・・え? じゃあ・・・ あの・・・ 赤ん坊の泣き声や、女の声って・・・・このテレビ・・・?(恐)」

              と、言葉に詰まりました。

              応急処置としてテレビを祓った後、

              「これ、私の手には負えないから、然るべき場所へ引き取ってもらった方がいいわね。 
              きっと、何かの事情で亡くなった親子だと思うわ・・・ このテレビの持ち主かも・・・。
              テレビを通してこの世に物凄い念を残してる・・・ このままこの部屋に置いておくと危険よ。」

              「・・・そっか・・・わかった・・・ 半信半疑だけど・・・・信じるよ。 俺、あまりそういうの
              信じない方だけど・・・ でも立て続けおかしなことが起きてるし、こればかりは勿体無い
              なんて言ってられないよな・・・ 」


              ・・・というわけで、A君はそのテレビを手放した後、念の為、A君とそのお部屋も
              然るべき方に祓ってもらい、身代わり札のようなものも頂きました。


              それ以来、A君は金縛りに遭うこともなく、また、隣人からの苦情もなくなり、無事
              大学を卒業、今は新聞記者として働いています・・・・
                   

                   
                   














                   


               
               

          






































 



                   
第六十話 〜  扉の怪



       
これは子供の頃の夏休みの話です。

        私は夜遅くまで、それまでさぼっていた夏休みの課題を必死に片付けていました。

        「自業自得、怠けすぎていた私がいけないんだ・・・」 
        ため息まじりにそう心の中で呟いていると、父親が「どうだ?頑張ってるか?」と、
        私の様子を見に部屋を覗きに来ました。 
        イライラしていた私は
        「部屋に入る前にノックしてってお願いしたじゃない!」
        と怒ると、
        「自分の子供の部屋に入るのに遠慮することなんかないだろう? ・・・そろそろ
        寝るんだぞ、もう12時過ぎてるじゃないか。」
        そういって部屋を出て行きました。

        あ"〜〜〜〜〜〜〜もう!気が散る!!! と、はかどらないのは全て父親のせい
        でもあるかのように文句タラタラ言いながら、殆ど空白の絵日記を無理矢理埋める
        作業をしていました。
        
        ・・・集中力も鈍ってきたし眠くなってきたし、そろそろ終わりにしようと思い
        始めた頃、また背後で不意にドアが開く音がしました。

        「も"〜〜〜! だからノックくらい・・・」

        と言いながら後ろを振り返ると・・・・

        ドアはほんの少し隙間が開いていて、微妙に揺れ動いています。

        ・・・お父さんが閉め忘れたんだわ! と思い、ため息をつきながらドアを閉めると、
        机の上の課題を片付け始めました。

        片付けていると、また背後で何か奇妙な物音がしたかと思うと、ゆっくりとドアノブを
        捻る音がしたのです。

        おかしいなと思ったのですが、次の瞬間、体が凍りつきました。

        ・・・ドアの方から、何か気味が悪い異様な生温い風が足元に絡みつくように流れて
         きたのです・・・・

        ・・・え?何だろ、これ・・・ ヤバイ・・・ きっとこれは・・・

        そう思っていると、背後でドアがゆっくりと開く音が聞こえてきます。

        私はガタガタ震えながらも咄嗟に机の引き出しの中からお守りを取り出し、それを
        握りしめると、ドアの方を頑なに振り向かず、一心不乱にお経を唱えました。

        暫くの間、異様な風は気味悪く足元に纏わり付くよう流れていましたが、暫くすると
        その気配は消えました・・・。

        気配が消え、ゆっくり後ろを振り向くと、なんとドアは何事もなかったかのように
        しっかり閉まっていたのです。

        恐ろしくなった私は、その夜は明かりを消すことができず、朝まで一睡もできなかった
        ことを覚えています。

        ・・・何故私は振り向かなかったのかなと、不思議に思い、叔母に話しましたら、

            
        「もしかすると、マリちゃんを守ってる後ろの人が『危ないから振り向くな』って
        忠告したのかもしれないね。 きっと振り向いちゃいけなかったのよ・・・。」


        ・・・叔母からその話を聞かされ、あらためて背筋が凍る思いをしたのです・・・・


        ・・・もしもあの時、振り向いていたなら・・・

                         私は・・・一体何を見ていたのでしょうか・・・?